文書作成日:2023/09/12

2022年度の労基署による賃金不払事案の指導金額は121億円

 先月、厚生労働省は「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)」を公表しました。これは2022年1月から2022年12月までに、全国の労働基準監督署が、賃金不払が疑われる事業場に対して実施した監督指導の結果を取りまとめたものです。この取りまとめは、これまで支払額が1企業で合計100万円以上の割増賃金不払事案のみが対象とされていましたが、今回から、それ以外の事案を含めた賃金不払事案全体が集計されています。以下ではその結果と実際の監督指導の事例をとり上げます。

[1]監督指導状況
 2022年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数、対象労働者数及び金額は以下のとおりです。

  • 件数 20,531件
  • 対象労働者数 179,643人
  • 金額 121億2,316万円

 このうち、2022年中に労働基準監督署の指導により企業が賃金を支払い、解決されたものの状況は以下のとおりです。

  • 件数 19,708件(96.0%)
  • 対象労働者数 175,893人(98.0%)
  • 金額 79億4,597万円(65.5%)

 この支払われた金額の中で、1事案における最大支払金額は2.7億円でした。

[2]監督指導の対象となった事案
 本結果の中では「監督指導による是正事例」が紹介されていますが、自社の労働時間管理の在り方を見直す際の参考となりますので、ここでは労働時間の記録と労働実態の乖離の事例をとり上げます。

[概要]

  • 過重労働による労災請求を基に、労働基準監督署が監督指導を実施。
  • 労働時間はタイムカードにより出退勤時刻を把握し、残業時間は残業申請により把握。
  • 聴取調査において、管理者が出退勤時刻と残業申請の時刻に乖離があっても労働者への確認が不十分なまま黙認していたとのことであったため、出退勤記録と残業申請との間の乖離の原因究明や不払となっている割増賃金を支払うよう指導。

[企業が実施した解消策]

  • タイムカードによる出退勤記録と労働者からのヒアリングなどを基に乖離の原因や割増賃金の不払の有無について調査を行い、不払となっていた割増賃金を支払った。
  • 賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。
    1. 日々、出退勤時刻と残業申請の時刻に乖離があった場合には、管理者及び労働者に対し通知を行い、注意喚起を行うこととした。
    2. 毎月、人事担当部署において、出退勤時刻と残業申請の確認を行い、2つの記録に乖離がある場合については、労働者に乖離の理由を確認することとした。
    3. 管理者を集めた会議を開催し、部下とのコミュニケーションを促進することにより、適切な労働時間申請が行われる環境を整える必要性についての意識向上を図った。
    4. 全社員を集めた会議を開催し、労働時間管理の重要性を周知し、会社としてもワーク・ライフ・バランスを重視していることを説明し、労使一体となって適正な労働時間管理の重要性についての認識の共有を図った。

 労働時間の記録と労働実態の乖離がある場合は、上記の取組のように労働者に確認し、乖離を防止するため、労働者本人と管理者に対して注意喚起するなどの取組みが求められます。自社においても、労働時間記録と労働実態の乖離が生じていないか確認し、問題があれば早めに対応しましょう。

■参考リンク
厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)を公表します

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。