
従業員から、親の介護のために、介護休業を取得したいという相談があった。介護休業を取得した従業員はまだいないため、社労士に相談することにした。
先日、従業員から親の介護のために介護休業を取得したいという相談がありました。詳しい状況は今後確認することになりますが、そもそもどのような場合に介護休業が取得できるのか等、教えてください。
わかりました。具体的な取り扱いは、就業規則(育児・介護休業規程等)を確認していただくことになりますが、御社では法令通りの基準となっていたかと思います。介護休業の取得については、まず従業員が取得できる対象者であるか、介護が必要な家族が対象家族の範囲に該当しているか、そしてその対象家族が要介護状態であるかの3つを確認する必要があります。
相談があったのは、勤続10年目の正社員です。
なるほど、それであれば取得できる従業員ですね。念のために雇用期間に係る要件を確認しておくと、契約社員のように有期雇用の場合には、取得の申し出時点で1年以上の雇用されていることが必要になります。また、無期雇用の従業員についても、継続して雇用された期間が1年に満たない従業員は、介護休業の申し出を拒むことができるとして、労使協定の締結を必要としています。今回の従業員はこれらに該当しないため、介護休業が取得できます。
就業規則と労使協定を確認する必要があるのですね。今後は申し出のあった従業員の勤続年数をまずはチェックすることにします。
さて、介護が必要な家族が対象家族の範囲に該当しているかという点ですが、今回は親の介護ですので対象家族に該当します。こちらも対象家族の範囲を確認しておくと、配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫になります。そして、その対象家族が要介護状態にあるということがポイントとなります。
要介護状態とは、介護保険制度で要介護状態に該当している必要があるのですよね?
そのように誤解されている方は多いかもしれません。育児・介護休業法に定める要介護状態とは、負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態のことを言います。この常時介護を必要とする状態について、厚生労働省から「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」が示されていますので、この基準に従って判断することになります。
判断基準があるのですね。
はい。その判断基準の中で、常時介護を必要とする状態とは、以下の1.または2.のいずれかに該当する場合であることとされています。
- 介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上であること。
- 下表の状態(1)〜(12)のうち、2が2つ以上または3が1つ以上該当し、かつ、その状態が継続すると認められること。
なるほど、介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上であることに該当していない場合でも、介護休業を取得できる場合があるのですね。
そうですね。従業員の申し出に基づき、状態を確認することになります。
会社は、常時介護を必要とする状態に該当しているかを確認するために、要介護状態にあること等を証明する書類の提出を求めても問題ないのでしょうか?
書類の提出を求めることは問題ありません。ただ、介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上である場合に限られませんし、必ずしも公的書類や医師の診断書等が提出できるとは限りません。したがって、申し出に医師の診断書の添付を義務づけることなどは望ましくなく、書類が提出されないことをもって休業させないということはできません。
また、この「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」の中に、「この基準に厳密に従うことにとらわれて労働者の介護休業の取得が制限されてしまわないように、介護をしている労働者の個々の事情にあわせて、なるべく労働者が仕事と介護を両立できるよう、事業主は柔軟に運用することが望まれます」という記載があります。仕事と介護の両立支援の観点からなるべく介護休業の取得を拒まないようにという考えが示されています。
なるほど。今回、従業員から初めて介護休業を取得したいという相談がありましたが、今後もこのような相談が出てくるように思います。その時に対応できるように、介護休業や介護短時間勤務などについて復習してみます。
対象家族が要介護状態になったときに、介護休業以外で活用できる制度には以下のようなものがあります。制度の詳細は、就業規則で確認してください。
- 介護休暇:通院の付き添い、介護サービスに必要な手続きなどを行うために、年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで1日または時間単位で介護休暇を取得することができる。
- 所定外労働の制限:介護が終了するまで、所定外労働の免除を受けることができる。
- 時間外労働の制限:介護が終了するまで、時間外労働を1ヶ月24時間、1年150時間までとすることができる。
- 深夜業の制限:介護が終了するまで、午後10時から午前5時までの労働を行わないようにすることができる。
- 所定労働時間短縮等の措置:短時間勤務制度・フレックスタイム制度・時差出勤の制度・介護費用の助成のいずれかの制度について、利用開始の日から3年以上の期間で、2回以上利用することができる。
■参考リンク
厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/000103504.html
厚生労働省「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」
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